「自費が高すぎる」と言われることがありますがそれは違います。
保険が安すぎるのです。
私が歯科医師免許を取得して約30年になります。
その間、学会に入り、さまざまな勉強会やハンズオンセミナーに参加し知識を毎年更新し診療機材や材料もより良い物を導入し研鑽してきました。
私が今持っている知識と技術を100%発揮しようとすると自費診療になってしまいます。
なぜか?? 健康保険では免許取り立ての1年目歯科医師の治療と、30年間技術の向上に務めてきた私の治療が同じ金額です。明らかな技術の差があるにもかかわらずです。
残念ながら保険では私の知識と技術、最新の材料を100%発揮して治療することはできません。
制約の多い保険診療だと私が今持っている知識と技術は50%も発揮できません。
自費はぼったくりではなく、技術と知識を正当に評価した適正価格です。
保険が安すぎるのです。
「同じ阿河先生がやってくれるんだから見た目が違うだけで保険も自費もそんなに変わらないでしょ?」と言われることがあります。
申し訳ありませんが保険と自費で同じ内容の治療はやっていません。保険と自費の金額の違いは材料と技術、知識の違いです。見た目の違いだけではありません。
保険診療の金額は国が値段を決めた診療報酬です。
医療費全体のうち歯科がもらえる額は約7%です。残り93%は医科と薬科ですので歯科医療費はほとんど予算がないというのが現状です。
予算がない中で診療報酬を決めているので、材料などは診療報酬で決められた金額が我々の仕入れ値の原価割れをおこしていることもしばしばあります。
「ファイバーポスト」という良い材料が保険でも使用できるようになると聞き喜んでおりましたが、決められた金額を見て愕然としました。
ファイバーポストの定価は1本1000円(税別)ですが国が決めた我々が請求できる金額は890円です。完全に原価割れですね。これは定価の2割引が販売価格だろうということで決められているようですが、800円(税別)で仕入れたとしても税込864円です。なんと原価率97%!ありえません。
仕入れ値と同じ値段で販売している小売業の方っていらっしゃいますか?
せっかく良い材料が開発され保険で使えるように認められても原価割れするような値段をつけられたら誰も使いません。
金属の被せ物も原価率は約80%です。
歯科医療はひとりひとりの方に手作業でオーダーメードの治療をご提供しています。この世に手作りのオーダーメードで原価率が80%なんてものが存在するでしょうか?
保険診療ではこのような原価割れが多々あります。その分は我々の持ち出しになってしまうためできるだけ安い材料を使おうとします。当然、精度は落ちます。できるだけ安く作ってくれる技工士さんに作ってもらおうとします。技術は二の次になってしまいます。時間をかければかけるほど赤字になるので早く一人の方を終わらせなければなりません。薄利多売にならざるを得ないのです。
「保険で良いものを」と頑張っておられる先生もいらっしゃいますが、かなり難しいです。というか無理ではないでしょうか。
口は人の体の入り口です。口の中が健康になることで体全体が健康になることは証明されているのに健康保険では口の中の健康に予算を分けてくれません。この国は国民の健康についてどれだけ真剣に考えているのか疑問に思うこともあります。
消費税が上がって医療費も上げてくれるのかと思いきやどうもそうではなさそうです。歯科においては「保険で良いものを」というのは夢の話ですね。
自費は原価割れするような値段設定は当然していません。
学会やセミナーなどにしっかり参加して知識と技術を研鑽し、ひとりひとりの方としっかりと向き合い、時間をかけて良い技術と良い材料を使用し、技術の高い技工士の方に作ってもらう、そうなると自ずと費用は高くなってしまいます。
大半が愚痴になってしまいましたが、自費が高いのではありません。保険が安すぎるのです。